シャンゼリゼ
「だから別れようと決心してから毎日通ってるしね!」
「それでここにいんだ」
「でも来たって橋くんいるだけで相太に会わないんだな」
別れを決意してはや三週間。
こうして相太のアパートを訪ねても会うのは橋くんだけ。
「こうも続くと毎日橋くんに会いに来てる気分だよ」
「メールすればいいじゃん」
「え?」
「メールで一言、別れよって送れば済むだろ」
「え~」
あたしはおもいっきり顔をしかめる。
「あたしそういうの無理なんだけど。メールで告白も振るのもやだ。なんか人との関係軽く扱ってる気がする」
缶チューハイの残りを煽って勢いをつけ、叫んだ。
「相手の顔も見えないデジタルな文面でどうにでもなるとか思うなよ!」
ふんっと荒い鼻息も付け足せば、橋くんの視線が雑誌からあたしへと移動する。
「俺ビール」
そしてそれはすぐに冷蔵庫へと向けられた。
「菅居もお代わり飲む?」
「何あったっけ」
「黒ビールあるけど」
「じゃあそれ―」
人の部屋で好き放題に飲む酒のなんて美味しいこと。
そうして約一ヶ月、あたしと橋くんの奇妙な関係は続いた。
それが途切れたのは一月ぶりに部屋に帰ってきた彼氏に私がようやく別れを告げたから。
一方的にぶちまけてスッキリしてから、相太の部屋にはおろか最寄駅にすら行っていない。