優しいカレの切ない隠し事
時間にかなり遅れたんじゃないかと思ったら、全然余裕だった。
さすが、聖也。
老舗旅館の御曹司だけあって、その辺はシッカリしてる。
「可愛いじゃん、陽菜」
「ありがと…。聖也も着物似合ってるね」
着付けだけでなく、ヘアもやってくれたのだから驚きだ。
それにしても、聖也も濃紺の着物がよく似合ってる。
この姿を見ると、立派な旅館の御曹司そのものだ。
「少し歩こうか。接待って言っても、自由に見て回ることが出来るから」
聖也に促され、旅館の外から見てまわることにした。
その言葉通り、完全に旅館のお披露目会で、聖也は知り合いに会うたびに挨拶と仕事の話をしている。
そして、わたしはというと、夜の雰囲気がバッチリ写真に撮れるとあって、取材も欠かさず行っていたのだった。
そういえば、圭介からの電話は何だったんだろう。
かけ直すタイミングを逃してしまったもんな。
気になる…。
すると背後から、圭介の声がしたのだった。
「陽菜?」