優しいカレの切ない隠し事


圭介は、そのままわたしを抱きしめた。

「圭介…?」

「本当は今夜、ロンドンの話をしようと思ったのに。陽菜が悪いんだぞ」

「ロンドンの話?それ、わたしも聞こうと思ってたの」

それなのに、すっかり違うことに意識が向いていたなんて情けない。

だけど圭介は、その話をする代わりに、唇を重ねてきたのだった。

「ん…。圭介…。キスなんてしてたら、話にならないじゃない」

軽く押し返すと、その手は余裕で止められた。

「そうだな。話にならないな」

言葉ではそう言うくせに、圭介はキスを止めない。

「ね、ねえってば。本気で話そうよ」

舌を絡ませるキスに、わたしの頭はクラクラしてきた。

「陽菜が悪いって言ったろ?」

そう言ったかと思ったら、圭介はわたしをその場に押し倒したのだった。

「ちょ、ちょっとここで!?」

「どこでもいいだろ?」

今夜の圭介は、いつもの圭介らしくない。

だけど、そんなカレにもときめいていた。
< 155 / 192 >

この作品をシェア

pagetop