優しいカレの切ない隠し事
日中とは違い、静まり返ったフロアの先で、うっすらこぼれる明かり。
二人が帰ってきてるのか、他に人がいるのか。
とにかく誰かがいることには間違いなかった。
「圭介たちかな…」
そっとオフィスのドアに近付いた時、栞里さんの声が聞こえてきた。
「本当にごめんね、圭介」
涙声にも驚きだけど、栞里さんが『圭介』と言っていたことに驚きだ。
「何で、栞里さんが『圭介』って呼ぶの?」
隠れるように様子を伺うと、二人がちょうど圭介のデスクの前で立っている。
「栞里がそんなに気にすることはないよ。それに何度も言ったけど、お前の上司はオレなんだから、責任は全てオレにある」
「だけど、圭介。わたし、圭介の足を引っ張る真似をしちゃって…。本当は、今でも応援してるのに」
俯いて涙を流す栞里さんを、圭介はゆっくりと抱きしめた。
「ありがとう、応援してくれて。その気待ちだけで、本当に十分なんだ」