優しいカレの切ない隠し事


圭介に、見たことを言ってしまえば、本当のことが分かるのかもしれない。

だけど、それが出来ないのは、今のわたしたちの関係を壊したくないから。

圭介の過去を知りたいようで知りたくないのは、前からずっとのことだ。

栞里さんとの関係を知って、ギクシャクなんてしたくない。

と思っていながら、あんな避け方をしたら変に思われるに決まってるのに…。

たいがい、わたしは恋愛下手だ。

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ーーー

「おはようございます」

いつもと変わらないオフィスの朝。

栞里さんのミスは、圭介の采配で何とか落ち着いていた。

それが、わたしには複雑だ。

「あ、陽菜ちゃん。おはよう。昨日はごめんね」

「え?」

栞里さんの『ごめんね』の言葉に、ゆうべ圭介と抱き合っている姿がフラッシュバックする。

だけど、すぐにそれがミスのことを言っているのだと分かり、首を横に振った。

「栞里さんには、いつも助けて貰ってばかりですから…」

嫌だな…。

栞里さんの顔、まともに見られない。

デスクに着いて、仕事の準備を始めた時、

「花井、ちょっといいかな?」

と、圭介が声をかけてきたのだった。
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