優しいカレの切ない隠し事
「はい…」
立ち上がろうとするわたしを制止して、圭介は資料をデスクに置いた。
「この旅館の取材を、今日オレと行って欲しいんだ」
「旅館ですか?」
今日行くなんて、あまりに急すぎる気がするけど。
一体どこの旅館だろう。
「花井旅館。名字が一緒だろ?花井にピッタリの旅館だと思ってさ」
「花井旅館?」
まさか、花井旅館って…。
資料を手に取り、パラパラとめくる。
間違いない。
ここは…。
「どうかしたか?」
「えっ?いえ、何でもないです」
資料をデスクに置くと、仕事の準備を続けた。
「課長、取材は何時からですか?」
淡々と質問するわたしに、圭介はぎこちない感じの笑顔を向ける。
「14時からだよ。また声をかけるから」
「はい」
仕事じゃなきゃ、圭介と話をしなかったところだ。
だけど、今はそれどころじゃない。
花井旅館て、聖也(せいや)の旅館よ。
どうするのよ、わたし…。