優しいカレの切ない隠し事
うわぁ…懐かしい。
車は花井旅館に着くと、駐車場に停まった。
ここは、わたしが聖也と付き合っていた頃、何度か訪れたことがある。
幸せな思い出も、切ない思い出もある場所だ…。
「花井旅館は、かなり知名度の高い旅館なんだ」
圭介は車を降りると、説明を始めた。
「うん」
それはよく知ってる。
「将来は海外進出も考えていて、これからかなり注目度が上がる旅館なんだよ。その取材に、うちが競争で勝ったんだ。陽菜、ここからは気合いを入れて取材しよう」
車の中での切迫詰まった雰囲気はどこへやら、圭介はジャケットを直すと仕事モードに切り替わった。
こういうところはホント、尊敬するところだ。
「競争で勝ったって、いつの間に?知らなかったよ、全然」