優しいカレの切ない隠し事
禁断のキス


その後の車中は最悪なくらいに重苦しい空気しか流れず、眉間にシワを寄せた圭介の運転は、この上なく荒かった。

そして、花井旅館の雑誌での紹介は、特集として連載が決まり、その専任担当はわたしにと、聖也から会社を通して指名が入ったのだった。

「絶対に許さないからな」

「何でですか?先方は、わたしに担当して欲しいと言ってるんです。課長にとって、花井旅館は大事な顧客なんじゃないですか?」

課長デスクの前で、わたしたちは初めての『口論』をしている。

聖也からの申し出が気に入らない圭介は、課長命令でわたしに専任担当をさせないつもりらしい。

それで言い合いになっているのだった。

「そうだ。だけど、花井はまだここでは新人に近い。この取材を一人で受けるには、荷が重すぎるんだ」

「そんなことありません。相手が相手ですから、むしろわたしの方がやりやすいかと…」
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