優しいカレの切ない隠し事
「こんにちは、花井陽菜です」
花井旅館に着き、挨拶をすると早々に、聖也が出迎えてくれた。
「待ってたよ、陽菜」
目を三日月の様に細めて微笑む聖也に、わたしは敢えて微笑まない。
「今は仕事中ですから。その呼び方はしないでください」
そう言うと、聖也はケラケラと笑ったのだった。
「冷たいことばかり言うなよな。ちゃんと仕事の話をするから、もっと気軽に話そうぜ?」
「気軽に?まぁ、分かったけど…」
ダメだ。
聖也の笑顔には、昔から弱い。
ここはわたしの負けだ。
「ほら、案内するから行こう」
勝ち誇った表情を浮かべる聖也の後について、初めて会った日と同じ部屋に入った。
「さて、さっそく仕事の話をするか。本当は、プライベートの話をしたいところだけど、お互い忙しいもんな」
「うん。だけど、意外。てっきり、プライベートの話をされると思ったのに」
向かい合って座わると、聖也は資料をテーブルに置いた。
「おいおい、見損なうなよな。陽菜から連絡も貰えてないんだし、長期戦も覚悟してる」