優しいカレの切ない隠し事
ーーー夜の街は大好き。
ロマンチックで、昼間には無いネオンの明かりが、大人の時間を告げるものに思えてくるから。
だけど今夜は違う。
緊張と不安しか感じない。
「ごめん、待たせたな」
約束通り、会社のビルの駐車場で待っていると、30分遅れで圭介が走ってやって来た。
「仕事、詰まってたの?」
「ああ、ちょっと初姫神社の記事を内田と仕上げてたんだ」
「初姫神社の?栞里さん、さっきまでずっといなかったじゃない」
「他の取材が入っててさ。さっき戻ってきたから」
「そう…。だけど、何でいつの間に初姫神社の記事を、栞里さんが担当してるの?」
あの場所が二人の思い出の場所だから?
だけど、最初に取材に行ったのはわたしとだし、プライベートで一緒に行こうって約束したじゃない。
それなのに、どうして…?
答えが聞きたいのに、圭介は答えてくれない。
そのくせ、車の出庫作業を終えた圭介は、わたしの手を当たり前のように握ったのだった。
「手、冷えてるな。オレが待たせてたからか」