優しいカレの切ない隠し事


「陽菜…」

圭介は、わたしを振り向かせると、そのまま顔を近付けてくる。

それがキスをしようとしていると分かり、思わず体を押しのけていた。

「何するんだよ陽菜」

圭介には予想外の行動だったのか、眉間にシワを寄せて睨んでいる。

「だって、キス…したくないから」

「何でだよ」

「したくないものは、したくないの!」

この後に及んでも、まだ栞里さんの話が出来ない自分が情けないけど、核心に触れる勇気がない。

だけど、圭介を拒むことは出来た。

ただそれは、圭介の逆鱗に触れたらしく、わたしの腕を乱暴に掴むと力任せに引き寄せたのだった。

「い、痛いじゃない。何するのよ」

今度は、簡単には振り払えないほど、力を入れられている。

「何するじゃないよ。それはこっちのセリフ。いつの間に、キスするのも嫌なほど、オレから心離れたんだ?」
< 95 / 192 >

この作品をシェア

pagetop