右隣の彼
「私がどんな思いでこの一週間を過ごしてきたかわかる?」
「教えて」
「隣に座ってるのに話しかけても来ないし、
 お昼だってしつこいくらい誘ってきたのに今は上司や女性社員とだし
 朝も私より早いし、帰りは私より先に帰るし、取引先の女性社員には
 愛想振りまくるくせに私には敬語だしー」
「うん・・・」
「気になって気になって・・・私がわからないって答えたから怒ったのかなって
 でもあの時は急に好きって言われて・・・今まで気にした事なかったしー」
私は吐き出す様に岸田君にぶつけた。
岸田君は私の目をじっと見つめるとフッと笑った。
「でも今は違うよね。この一週間で俺の事いっぱい考えてくれたよね。
 俺は・・ずっとずっとこうやって待ってたんだ。
 好きだ一美の事が好きなんだ・・・一美は?」
心臓がドクンドクンと音を立てて、締め詰める様な感覚に襲われる
たった一週間で私は目の前にいる年下の彼に心を奪われていた。
だけどまだ心のどこかでそれを認めたくない自分がいた。

「私は・・・私は・・・」
好きっていうたった一言が言えない。
だって言ったら私自分がどうなるか想像できないから・・・・
こんなに相手から自分を必要とされた事がなかったから
だから・・・
「好きって言えないなら返事の代わりに俺の名前を呼んでよ」
涙が私の視界をじゃましていた。
だけど岸田くんが私を愛おしそうに見つめているのはわかった。
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