右隣の彼
打ち合わせスペースに案内されるとまたもやニヤリと笑いながら
ドカッと椅子に座った。
私はまず課長の代わりに打ち合わせすることをお詫びした。
だが社長は怒った様子などなく
「ヤローと打ち合わせより一美の方がいいから謝んなくていいぞ。
 逆に川田さんに感謝だな。」
こんな調子だから打ち合わせそっちのけで雑談が始まってしまった。
しかも私が社長と呼ぶと
「社長じゃなくて颯太でいいよ。だって俺もお前の事一美って呼んでるし
 俺ら同い年じゃねーか。これから俺の事社長って呼ぶなよ!大体
 お前が夏の補佐してた時もそういう約束だっただろう?」
そうなんです。
社長って私と同い年だった。服装をみてもわかるが肩っ苦しいことが
嫌いで、打ち合わせなどでも腹の探り合いの様な会話や上っ面だけの
言葉や話し方を嫌う。仕事するときは同じ目線でどちらが上かなどは
彼には関係なかった。
同じものを作る仲間としての繋がりを大切にしているから
ここの会社を辞める人はほとんどいない。

長い雑談がおわりやっと本題に入れると思ったときだった。
「失礼します。コーヒーお持ちしました」
女性スタッフが入ってきたがそのスタッフをみて私は目が点になった。
それは相手も同じだったがすぐに笑顔に戻った。
「あっ!一美さんじゃないですか~?こんにちは~」
嫌味なほどの笑顔でコーヒーを差し出してきたのは岸田君のいことの
葵だった。
「こ・・こんにちは」
なんとか平常心でいようと思うのだが顔が強張る。
そんな私と葵さんを見て颯太さんがお前ら知り合いか?と尋ねてきた。
葵さんは一瞬だけ目を細めるとすぐに笑顔を作り
「知ってるもなにも、私の好きな人の彼女さんなんですよ~」
悪意にも取れる言い方をした。いや、完全に悪意だ。
だがその言葉に飛びついたのは颯太さんだった。
「お前・・・彼氏いるのか?」
「あっ・・ま~いますけ・・・ど」
打ち合わせに来たはずがとんでもない方向に向かっていた。
「・・・・なんだよ~。俺ひそかにお前狙ってたんだけどな~」
真顔で言う颯太さんの言葉に私は氷の様に固まったが
「えええ!そうなんですか?あっ・・でも凄くお似合いかも~
 うんうん絶対いい。一美さん、いまなら玉の輿確定かもですよ~」
葵さんのこの言葉に岸田君が言ってた言葉を思い出した。
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