二重螺旋の夏の夜
春、新年度のスタートともに雅基の部屋での生活が始まった。

仕事では、これまでと変わらず営業第二課で3年目を迎えた。

教育係だった先輩――井口さんは去年の春に別部署へ異動してしまっていたので、わたしはこの1年間を井口さんがいない環境で過ごしてきた。

そして井口さんがいかにわたしのフォローをしてくれていたのかを知った。

まだまだ至らない点が多すぎることで落ち込みもしたが、かえってもっと頑張らなくてはいけないという意欲にもなった。

そうやって必死に過ごしていく内に、少しだけ周りを見る余裕も出てきた。



事務だけを担当するわたしのような社員を「ラクしたいとしか思えない」とか「どうせ結婚するまでの腰掛け程度にしか考えてないんだろう」とか、「エリート社員捕まえに仕事するふりして会社に来ているだけだ」と言う人もいる。

実際に世間でもそう思われている節がある、ということもわかっている。

わたし自身、結婚して生活に支障をきたすようなら辞めるし、会社に必要ないと言われてしまったらそのときは仕方ないと思っているのだから。

それでも、特筆すべき取り柄が何もないわたしにとって、少しでも営業の人の力になれるこの仕事にはとてもやりがいを感じている。

もちろん手を抜いたこともないし、だいたい手を抜けるほどわたしは仕事ができるわけでもないし、こまごまとした作業は昔から好きで、できればこのまま続けていきたいと思っている。

今年入る新入社員の女の子には、わたしが教育係としてついてお世話をするということもすでに上司から聞いていた。

とうとうわたしが教える立場になるのか…。

井口さんのようにはなれないとは思うけど、気を引き締めて頑張ろう。

そう思っていたのに。
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