二重螺旋の夏の夜
現実から、そして本質から目をそらし続けていたのだろう。

すべてをいいように解釈しようと必死になっていたことにすら、気が付かなかった。

「ごはん、どうする?」

「あ、何でも好きに作っていいよ。俺は好き嫌いないからさ」

引っ越してきた初日の夜、ソファでくつろぐ雅基に聞いてみたら、後ろにいたわたしに顔だけ向けてそんな答えが返ってきた。

メニュー何にする?じゃなくて、家で作るのか外食にするのか何か買ってきて食べるのかどれにする?っていう意味合いだったんだけどな。

それ以前にお互いの家を行き来することのなかったわたしたちには、食事はわたしが作るという暗黙の了解なんてものは存在しなかった。

だから、わたしがやることを前提にしている雅基の発言に少し疑問を感じかけたけど、その日作った焼きうどんを雅基は「おいしい、おいしい」と言って笑顔で食べてくれたし、わたしも料理は割と好きなので別に苦ではなかった。

洗濯は、雅基が着替えたシャツや靴下をカゴに入れたまま翌々日まで放置していたので、「洗っちゃってもいい?」とわたしから申し出た。

「え、躊躇してたの?いいに決まってるじゃん、当り前でしょ」

同じようなやり取りを、掃除、日用品や食材の買い物、ゴミ出しなどのときでも繰り返した。

結局1人暮らしでやってきた全ての家事をまるまる2人分請け負うことになり、それはさすがにウエイトが重くないだろうかと思わなくもなかった。

でももしかしたら雅基は、女の人が家のことをすべてやるのが当然、という考え方の家庭環境で育ってきたのかもしれない。

住まわせてもらっている身であるわたしが、頑張ればいい話だ。
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