二重螺旋の夏の夜
それでも生活費の問題は、そのときのわたしにとっても厳しいと感じるものだった。

2人で一緒に住むのだから家賃は半分ずつ、というのは最初に決めたことだったけど、それ以外のことについても話しておくべきだった。

買い物はわたしが自分のタイミングで行っていたので、もちろんわたしの財布からお金が支払われる。

公共料金も通知が来てからコンビニに支払う形式だったので、わたしが行ってわたしがお金を出す。

どこぞの夫婦のように奥さんが旦那さんの財布を管理しているわけでも、かといって雅基がわたしに生活費をいくらか渡してくれるわけでもない。

言いだせないわたしもわたしだ。

そう思って一度、「生活費も半分ずつにしない?」と切り出してみたことがある。

すると「でも外でデートするとき、いつも全部俺が払うでしょ?それで相殺されるんじゃない?」と、ちょっと怪訝そうな顔で返されてしまった。

確かに付き合ってから今までずっと、わたしが財布を出そうとする度に「ここは男に見栄張らせてよ」と言って、雅基が全額を負担してきてくれた。

「…そうだね、ごめん」

怒らせたくない。

嫌われたくない。

そういう心理が瞬時にはたらいた。

この話題を振ってしまったことをひどく後悔した。

うつむいてしまった顔をおそるおそる上げてみる。

「今度朝からどこかに遊びに行こうか」

そこにはいつもの明るい表情に戻った雅基がいて、フォローに取れるようなことも言ってくれて、それだけでもう十分だと思ってしまった。

わたしの給料はそこまで高いわけじゃないので、なるべく節約をしてやりくりをしていかなくてはならない。

ちょっとした贅沢もしないようにしよう、わたしが頑張ればいいのだから。
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