二重螺旋の夏の夜
「…はい、すみません」

「『すみません』じゃないでしょう。今の状態が良くないってことは、自分でもわかってるんだよね?」

「…はい」

「じゃあこれからどうしたいのか…今思ってること、言ってみな」

まるで小さい子供をなだめて諭すような、穏やかな声が胸にしみてくる。

「…早見さんに、全然関係ない話ですよ?」

「構わないよ」

「すごく、わたしが情けない、っていうだけの話なんです」

「聞きますよ、何でも」

「…軽蔑しませんか?」

「するわけないでしょう。これでも神崎ちゃんより長く生きてますよ、ちょっとだけど」

保険なんてかけなくていいから吐いてラクになんなさい、そう付け加えて立ち上がった早見さんは、わたしの隣の席に座った。

押さえてきた感情が一気にこみあげてきて、わたしはもう、うつむいて顔を両手で覆い隠すことしかできなかった。

手のひらが涙で濡れていく。

誰にも何も言えなかった。

わたしが至らないということを人に言っても、ダメなやつだと思われるだけだ。

そうやって周りの人がわたしを避けて、遠ざかっていってしまうのが怖い。

ずっとそう思っていた。

次第にしゃくりあげるくらいにまで、涙がぽろぽろと溢れて止まらなくなってしまっていた。

その間ずっと、大きな手がわたしの頭をぽんぽん、となでてくれていた。
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