二重螺旋の夏の夜
「先に頼んどいてやったんじゃん、感謝しろや」

「待て待て、先に1人で飲んでた上におつまみ大分減ってるよね?」

「だってせっかくの華金なのに早見来るまで待つとか無理」

なんてめちゃくちゃな論理なんだ…!

「お前が『7時から』って言うから7時に来たのに…」

「まぁいいじゃん。はい、さっさとかんぱーい」

ちょうど運ばれてきた冷酒を受け取ると、井口は手際よく2つのおちょこについで、片方を俺に寄越してきた。

カチン、と陶器が触れる音を立てて杯を合わせる。

空っぽの胃にすとんと冷酒が落ちてきて、心地のいい寒気がした。

「たまんないわー」

一気におちょこを空にすると、井口は気持ちよさそうに目を細めた。

もう何というか、親父だ。

おじさんの香りしかしない。

自分も人のことは言えない気もするが…。

「あ、お刺身の盛り合わせももうすぐ来るから。日本酒に合う肴を先に選んでいるこのスキルの高さ!さぁわたしを崇め給え!」

まさに刺身を頼もうとしてメニューに手を伸ばしかけたのを、井口が手で制してそう言った。

口調とドヤ顔は非常に腹立たしいが、このおつまみのラインナップは残念ながらその通りだった。

「でも1杯目はビールがよかった…」

場を握られて押されっぱなしの今の状況に少しの抵抗を、と思ってぼそっと呟くと、井口はにやりと笑った。

「そんな細かいこと言ってるからふられんだよ」
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