お姫様の召使の言いなり
「ねぇ、メルヘン王国ってなに?ここどこ?さっきの魔法かなんか?」



重い門の先に、それはまたきらびやかな玄関口。


またガチャガチャと音をたて鍵束の中から一本を取り出し扉を開けた。



セキュリティとか、全く気にしてないのかな。



城の警備システムにしては軽すぎる。



「一つにして」



“そして早く入れ”



と、目が言っていた。



どうやらこの扉も手を離すと勝手に閉まってしまうタイプらしい。



ぼくが入った後、素早く身を滑らせ中に入った。


ほぼ同時に閉まる。



轟音をたてて。



一体この扉、片方だけでなんキロあるんだ?



ぼくがそんなことを思いながら閉まった扉を見つめているまに、彼女はずんずん先へ行っていた。



風を斬るみたいな凛とした歩き方。



少し殺風景ながらも、やはりどこか高級そうな雰囲気漂う廊下に似合わないカジュアルな服装。




それはお互い様だけど。


でもやっぱり彼女の堂々とした態度は、どこか惹かれるものがある。



「……蕾」



立ち止まったまま動かないで、恐る恐るぼくは言った。



少し先で、キュッ、と、長い廊下の床と、靴の擦れる音がたった。



振り返ってくれた彼女の顔は、不機嫌オーラ全開で眉間に深いシワが切り込まれていて、でもそこで怯みはしなかった。



「あだ名…蕾でどう?」


「ツボミ?随分可愛い名前だね」



鼻で笑われて、ちょっとむっとする。



「まだ桜が蕾の季節だから。君の性格じゃなくて、見た目の方に合わせたんだ」



言い返してやったつもりだった。



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