キヲクの片隅
スニーカーを履き終え、帰ろうとする僕の後ろを、翔が付いてきた。
「たまには一緒に帰ろうぜ」
そう言って、僕と歩幅を合わせて歩き始めた。
「一緒に帰るの久しぶりだな」
「そうだな。お前一人だとぼーっと歩いてるから、たまに心配になるけどな」
翔は少し呆れた顔。
そんなに僕はぼーっとしているのかな?
今日も舞花に「ぼーっとするの好きだよね」なんて言われてしまったし。
「…ぼーっとする理由はなんなんだろうな」
翔は少し遠くを見ながら呟いた。
僕はぼーっとしてるつもりはないし、何か考えているわけでもない。
わからない過去を、思い出そうとしているわけでもない。
ただ、真っ直ぐに前を向いていなきゃならない。
後ろを振り返っても何もない。
覚えていたくないから忘れてるだけ。
僕は何もわからない自分の過去を多分嫌っている。
思い出してはいけないんだ。
思い出してしまったらきっと、何かが崩れる気がするんだ。
だから僕はずっと前だけを見てきたつもりだ。
翔の悲しげな顔の意味は、僕にはわかるはずもない。