キヲクの片隅

ばあちゃんは僕が中学の頃に死んだ。らしい。
そこからはじいちゃんが一人で僕の面倒を見てくれている。

記憶を無くした僕は、ばあちゃんの顔も声も覚えていなかった。

だけどじいちゃんちに行けば、仏壇にばあちゃんの写真が飾ってあるから顔はわかる。

声はわからないけれど、写真のばあちゃんはすごく優しそうでどこかホッとする。

ばあちゃんの写真に手を合わせるのは忘れた事はない。

記憶を無くしてしまった自分をとても悔やんでいる。
きっと絶対、大好きだったばあちゃん。
いつかヒトカケラでもいいからばあちゃんの事を思い出したい。

ごめん、ばあちゃん…。



僕は元々じいちゃんちに住んでいたのだ。
なので翔とは進路はもちろん、地元も一緒だということ。

今の高校は僕が志望したらしいが、それならば翔と同じ様に毎日一時間かけて通えばいい。

通学時間が長いのは苦ではない。

だけどなぜ、僕が高校近くのアパートに住んでいるか。
それはじいちゃんが僕に言った一言。


「またいちから、始めなさい」


高校入学の直前、俺の頭に手を置いて優しく微笑んで言ってくれたことを僕は今でも覚えている。

その時のじいちゃんの表情がどこか苦しそうだったことも覚えている。

だけどその意味が何もわからなくて、

僕はあの時、「うん」としか言えなかったんだ。
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