キヲクの片隅

「お兄さん、名前なんていうの?」

「え?」

笑いながら女の子は僕に質問してきた。
いきなりだったので間抜けな声を出してしまった。

「優人、だよ」

僕も目の前の女の子に笑いかける。

「…うん、そっか」

女の子はまた笑った。
大きな目を細め笑っていた。
笑顔を『つくって』いた。
だって目が笑っていない。

「どうしたの?何かあった?」

階段で転んだりして怪我でもしたのだろうか。
それとも友達とケンカ?
いや、僕のせい?

「優しいね…」

聞こえるか聞こえないか位の声で彼女は言った。
その目にはうっすらと涙が滲んでいた。

「笑顔作るのは得意なんだけどな」

彼女は開き直ったかのように大きな声で喋り出した。

「そうなの?」

「優人さん、よく見抜けたね」

いきなり名前で呼ばれて少しビックリ。
まだ涙は滲んでいたが今度はちゃんと笑っている

…ように見えた気がする。

「…ちょっとね、色々と」

泣きそうになるのを堪えながら僕に言った。

僕はこれ以上悲しませないようにするために必死に話題を探す。

ああ、そういえば…。

「ねえ、君の名前はなんていうの?」

彼女の名前を聞いていなかった。
僕の名前も言ったし、それくらいだったらいいのかな。
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