キヲクの片隅

「ねえ、ユキちゃんは俺と会ったことある?」

どうしても確信が欲しくて、
どうしても納得したくて。

「…ううん、ないと…思うよ」

ユキちゃんもなんだか泣いてしまいそうで。

「そっか…。俺の気のせい、だったかな」

少し勘違いをしていた自分が恥ずかしくなって、笑って誤魔化した。

そうだよな。
僕は普段この神社の前すら通らないしこの子とはまるで接点がない。

じゃあさっきの感覚は?
一体なぜ現れたんだ。

もう一度ユキちゃんの顔を見る。

ああ、やっぱりどこかで会ったことがある様な気がするのに。

この子を見ているとどうしてだろう…
なぜか切なくなって、胸がぎゅっと締め付けられる感覚に陥ってしまう。

初めて会ったはずなのに、ずっとこのままでいたいと思ってしまう。

触れたいと思ってしまう。

小さな神社、少し古い石階段。
通る者を優しく上から見下ろす木々。

今いるこの空間があまりにも優しすぎる。

僕は流れ続けていた涙を手で拭う。

「ねぇ、いつまでこの町にいるの?」

ユキちゃんからの質問に僕は素直に答える。

「日曜日に帰るよ。あ、でもまた夏にこっちに来るつもり」

そっか、と言って彼女は笑った。

「また、ここに来る?」

「うん、またこっちに来た時は顔を出すよ」

「次に会ったときは優人さんとゆっくり話をしてみたいな」

目の前に広がる景色と着物を着ているユキちゃんがすごく合っていて、僕はまだ少し柔らかい気持ちのままだ。

「俺の事覚えていてね」

僕は笑って小指を差し出した。
『ゆびきりげんまん』
彼女との約束を少しでも確かなものにしようとして。

「…それは、できないよ」

辛そうに笑っていた。

「したいけど、できない」

また、嘘をついてまで笑っていた。

「ごめんね」

彼女の言葉の意味がよくわからなかった。
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