偽りの香りで


「何だ、って。失礼ね。あんたが私に泣きながら電話してきたんでしょ。お姉ちゃんに振られたって」

「電話はしたけど、泣いてはない」

彼は私の手からウィスキーのグラスをひったくると、その残りを一気に飲み干して空になったグラスをマスターに突き出した。


「いいけど、大丈夫か?」

顔なじみのマスターが呆れたように彼を見下ろし、それから私に視線を移して肩を竦める。


「どれくらい飲んでます?」

「さぁ?普段の倍はいってるかも」

彼からグラスを受け取って、マスターが踵を返す。


「おかわりいりません。連れて帰りますから」

私がそう言うと、マスターが振り返って苦笑いした。


「は?勝手に決めんなよ」

荒い口調で私を睨む彼の腕を引っ張る。


「ここで飲んだくれてたってお姉ちゃんは戻ってこないわよ」

彼を見下ろしながら冷たい口調でそう言うと、彼が唇を真横に引き結んでうつむいた。



< 2 / 14 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop