偽りの香りで


「帰るわよ」

腕を上に引っ張りあげると、彼がうつむいたままおとなしく立ち上がる。

そうして私に腕をひかれるようにしながら店を出た。


***


彼は私の学生時代のスポーツサークルの同級生で、仲のいい男の子だった。

会社は違うけれど、就職先がたまたま同業で、職場も近く、社会人になってからも交流があった。

お互いお酒を飲むのが好きで、ふたりで偶然見つけたのが私の会社の近くの地下にあるバーだった。

ちょうど一年半ほど前、仕事帰りに彼とそこで飲む約束をしていた日に、私の姉から連絡があった。


「近くまで来てるんだけど、ごはんでもどう?」

彼が姉も一緒に…というから、私は彼と“彼女”をそのバーで引き合わせた。

それが、彼と“彼女”の出会い。

彼は昔からスポーツをやってきて活発で色気の少ない私とは対照的な、華やかで可愛らしい雰囲気の姉に一目惚れしたらしい。





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