偽りの香りで
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店を出ると、彼の腕を引っ張って大通りに出る。
そこでタクシーを拾うと、その後部座席に彼を押し込んだ。
彼の家のだいたいの住所を運転手に告げて、外からドアを閉めようとする。
そのとき、されるがままでうつむいていた彼が私の手首をつかんだ。
「お前も乗れよ。うちで飲み直すから付き合え」
つかまれた手首に私の意識が集中する。
その不意をついて、彼が強い力で車内に私を引っ張り込んだ。
「ちょっと!私は……」
慌てて降りようとするけれど、彼がつかんだ手首を離してくれない。
彼の手を振りほどこうと抵抗していると、彼が私の腰に腕を回して無理やり後部座席に座らせた。
「運転手さん、行ってください」
「ちょっと、離して!」
運転手が後部座席で騒ぐ私を心配そうに振り返る。
「大丈夫です。行ってください!」
彼が強い口調でそう言うと、運転手は躊躇いがちに頷いて後部座席のドアを閉めた。