矢野さん
「あのさ、俺が嫌いで一緒に居たくないのはよく分かってる。けど、本当に危ないから送らせて。それに矢野さん一人で帰らせたら、後で俺が祐子さんに怒鳴られるし」

 嫌いな俺と出来るだけ居たくないんだと思った――。

 早く離れたいんだって……そう思った。

 本当にそう思ったのに――。

「……違います……」

 小さな声で呟かれた言葉。

 その顔は悲しみに溢れた切ない表情だった。

「送られるのが嫌とかじゃないんです……」

「じゃあなんで一人で帰ろうとするの?」

「……」

 矢野は黙って俯く。

 掴んでいる腕から力が抜けて行くのがわかった。

 嫌じゃないならなんでそんな事を言うんだろう。

 ん?……てか俺の事嫌いなのに、送られるの嫌じゃないってどういう事だ?
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