矢野さん
ふと頭を過った疑問を考えていると、矢野が小さく口を開いた。

「……ごめんなさい……」

 ――?

 意味が分からず頭を傾げる。

「なにが?」

 そう聞くと俯いたまま矢野が答える。

「私のせいで嫌な思いさせてしまったから……。これ以上橘さんに迷惑かけるのは申し訳ないので……一人で帰ります」

 矢野の言葉に思わず目を丸くする。

 どうやらさっきの男に絡まれた事を気にしてる様だ。

「別に気にしてないからいいよ」

「でも……」

 矢野は顔をあげて申し訳なさそうな表情で俺を見る。

「私のせいで橘さん笑われて……バカにされて……」

「うーん。まぁ矢野さんのせいって言うか、人を馬鹿にする奴は誰だろうと馬鹿にすると思うし、そういう奴に何言っても変わらないと思うよ。だから矢野さんのせいって事はないから、気にしないで」

 正直驚いた……。

 矢野が俺の事を思って一人で帰ろうとしていたなんて。

 自分は散々俺を貶してたくせ、どういう事だ?

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