矢野さん
 思わずテーブルをちゃぶ台の様にひっくり返したくなる衝動をグッと堪える。

 あり得ねぇ!なんだこの女ぁ!!

 おれの顔が大した事ないだと!?

 笑顔が気持ち悪いだと!?

 初対面でしかも残念な顔をした女に、なんで俺の顔の事言われなきゃいけないんだよ!!

 お前なんかただの根暗のブスだろが――!!

 次々と沸き上がる怒りから、握り締めた手のひらに爪が食い込み鋭い痛みが走る。

 目の前にいる矢野に罵声を浴びせたい気持ちを懸命に抑えた。

 落ち着け……俺……。

 静かに深呼吸をして気持ちを落ち着かせていると、矢野が祐子さんに「御手洗いに行ってきます」と言い席を立った。

 煙草に火をつけ暫く矢野がいないことに少しホッとする。

 すると――。

「私もちょっと御手洗い」

 と、優香ちゃんが立ち上がった。廊下に出る際、一瞬目が合うとカァっと優香ちゃんの顔が赤くなるのが分かった。

 だよな!そうだよな!

 俺みたいなイケメンと目が合えばだいたい女達はそうなるのに!あのブス……。

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