矢野さん
「すみません。考え事してて」


慌てた様子でそう言うと俺に愛想笑いを浮かべた


「何でコンパの時教えてくれなかったの?可愛い名前じゃん遥って。俺もっと変わった名前なのかと思ったよ」


ハハ、と笑う俺だが矢野は無表情でまたテーブルを見つめている


「あー……俺も今度から遥ちゃんって呼ぼうかなー」


「やめてください!!」


賑わっていた店内が矢野の声で一瞬静まる


矢野は俺を睨む様に見ると視線を外した


「私、自分の名前嫌いなんです。それに橘さんだけには名前で呼ばれたくありません」



――ズキッと胸をナイフで刺された様な鋭い痛みが身体中に走る


橘さん「だけは」って……


冗談のつもりで言っただけなのに


なんでそこまで俺は嫌われてるんだよ


何で……嫌いなんだよ


俺は……


矢野がっ――!



……好きなのに!


思わず握り締めた拳に力が入った――……。

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