矢野さん
「橘」


 待ち合わせの橋に着くと人混みの中から手を振っている赤崎が見えた。


 その横には浴衣を着た祐子さんの姿もある。


 だが――、矢野の姿はなかった。


 やっぱり来ないか……。


 微かに早く打っていた鼓動も矢野が居ないとわかると治まっていくのがわかった。


「橘君。遅ーい」


 二人の近くまで行くと少し怒った様に言う祐子さんはいつにも増して綺麗だった。


 黒地を覆いつくすようなあでやかな牡丹の花が描かれた浴衣に、ラメが入った鮮やかな赤色をした帯をしている。


 髪は横で綺麗にお団子の様に一つに結われ、浴衣と同じ花の牡丹が一輪飾ってあった。

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