矢野さん
　アイツの姿が無くなると、はぁーと赤崎が俺の腕を掴んでいた手をゆっくり下ろした。


　祐子さんが心配そうに矢野に近づく。


「矢野さん。大丈夫……？」


「……はい」


　心配をかけまいと矢野が今できる精一杯の笑顔を祐子さんに返す。


　その姿を祐子さんは悲痛な顔で見つめていた。


「なんか……花火どころじゃなくなったね」


　赤崎がポツリと呟く様に言うと、四人の間に沈黙がうまれた。


「すいません……私のせいで……もう花火も終わるし……帰りましょう」


　暫くして矢野がそう言うと、痛々しく笑う。


「そうだね……あ！赤崎くん！食べようと思って色々大量に屋台で買ったやつ、さっきの場所に置きっぱだ！」


　祐子さんが慌てて言うと、赤崎と祐子さんが「取ってくる！」と言って二人走って河川敷へ向かった。


　どうやら俺が駆け出した後、直ぐに矢野が祐子さん達を呼びに行ったみたいで急いで来たようだ。

< 210 / 419 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop