矢野さん
 はぁー……と近くの塀に寄りかかると座り込む。


 立てた膝にダランと伸ばした腕を置くと項垂れた。


 カラン……と乾いた下駄の音がゆっくり近づいてくるのがわかる……。


 でも……なんだか矢野が見れなくて項垂れたまま、矢野の気配を身近に感じていた。


 暫くして――。


「……橘さん……」


 近くで矢野の声が聞こえた。


 項垂れた俺に合わせて矢野もしゃがみこんだのだろう。


 地面しか見えないけど、矢野の小さな声がハッキリ聞こえたから――。


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