矢野さん
――……
――――――――――

 ガラガラ――。

 誰かが入って来た気配で目を覚ます。

 目を向けると30後半ぐらいの看護師さんがどうやら配膳しに来てくれたらしい。

 目を覚ました俺に気付くと「夕飯ですよ」と言った。

 夕飯……。祐子さんと話をしていたのは確か朝だった気がする。

 そんなに寝てたのか……。

 昨日の夜から何も食べていない事に気付くと無性にお腹が空いてきた。

 だが起き上がろうとすると激痛が走る。

「いってぇ……」

 それを見た看護師さんが座るのを手伝ってくれた。

「ありがとう」と微笑むと看護師さんの顔が赤くなるのがわかる。

「それでは」と言い、そそくさと看護師さんが出ていった。
 あっ……やべ。

 惚れたかな?そんなつもりはなかったんだけど。ふっ……入院しててもイケてる俺ってすげーな。

 格好よすぎる自分が怖いぜ……。

 なんつってー!

「橘さん」

「うわぁ!」

 急に呼ばれて心臓が飛び跳ねる。

 聞き覚えのある声に顔を向けると矢野がいた。

 なっ――!?矢野いつの間に!?

 バクバクなる心臓

 矢野は驚いた様子の俺をジーと見つめている。

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