矢野さん
 暫く沈黙が続く……。

 その間、徐々に心臓を打つ早さが治まっていくのが分かる。

 矢野をよく見るとナース服を着ている。どうやらお見舞いに来たのではなく仕事中らしい。

 ……しかし、ナース服姿だっていうのに全く色気がない。

 勿論仕事着なので色気なんかなくていいのだが祐子さんとは偉い違いだ。

「……これ食後の薬です」

 長い沈黙の後、矢野がそう言うと薬をテーブルの上に置いた。

「あ、あと……その……、……ありがとうございました」

 小さな声で感謝を述べると矢野が俺に頭を下げて来た。

「え?あ、ああ……別に大した事ないし……」

 めちゃくちゃ大した怪我だがな。

 痛くて仕方ねーけどそこは俺!女に格好悪い所は見せられない。そう……それが例え矢野であっても――。

「矢野さんが無事で良かったよ」

 ニッコリと笑顔で言うと――。

「その気持ち悪い笑顔やめてください」

「……」

 笑顔のまま固まる。

 だが固まった笑顔はひきつってて漫画で言うなら怒りマークがある事だろう。

 このやろぉ~!

 一度ならず二度も言いやがった!

< 26 / 419 >

この作品をシェア

pagetop