矢野さん
 こんなにも私の事思ってくれてる黒田さんに早く返事をしないといけないのに……。


 何故か踏ん切りがつかない。


 何かが胸に引っかかってる――。


 黒田さんは今すぐじゃなくていいって言ってくれたけど、待たせすぎるのも良くないよね……。早く言わなきゃ……。


 お酒を飲みながら笑顔で話す黒田さんに頷きながらボンヤリそんな事を思っていた。


――――――――――
――――――


「あ、もうこんな時間か。明日仕事だよね?そろそろ帰ろうか」


 黒田さんが腕時計を見ながらそう言うので、携帯を取り出し時間を見た。


「もう11時なんですね。そうですね、明日も仕事なので」


 携帯を鞄にしまい立ち上がると二人で部屋を出た。


 レジまでの廊下を歩いていると、前を通りすぎようとした個室の襖が開き男性が出てきた。


 ――!?


 いきなり飛び込んできた人物に驚愕する。


 同時に心臓が止まったかと思うぐらい時も止まった気がした。


 出てきた男性も私を見ると目を丸くした。


「矢野さん……」
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