矢野さん
 ――!?


 そこには2ヶ月程前に矢野と一緒にいた男が立っていた。


 完全に頭が真っ白になって、ただ茫然と男を見る。


「あ、やっぱり。覚えてますか?前に新しく出来た居酒屋でお会いしたんですが……」


 そう言うと、フッと人が良さそうな顔をして笑った。


「あ……はぁ……」


 生返事に聞こえたかも知れないが、俺が今言える精一杯の言葉。


 忘れるわけない――コイツの顔だけは。


「良かったー。男前な方だったので直ぐわかりました。またお会いするとは、偶然ですね」


「あの……何か?」


 そんな事はどうでもいい。何か俺に用でもあるのか?


 苛立った気持ちが顔に出ていたのか、そんな俺を見て男が慌てた様子で口を開く。


「あ、すみません。あの……聞きたい事があるんですが……少しお時間いいですか?すぐ終わりますので」


 聞きたいこと?俺に?それって――矢野の事か……?


 一瞬躊躇った。だが、男の困った顔が気にもなった。


 矢野とコイツに会った事は赤崎には言っていない。矢野の話だと厄介な事になりそうなので、場所を変えようとおもむろに椅子から立ち上がった。
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