矢野さん
「場所変えて話しましょうか」


 男にそう言い、「すまん。ちょっと行ってくる」と赤崎に言うと二人で店の入口近くにある喫煙スペースへ向かった。


 置かれた幾つかの長椅子に座ると煙草を取り出す。


「何ですか?聞きたいことって」


 動揺を悟られないよう煙草を加えるとライターで火をつけた。


「矢野さんの連絡先知ってますか?実は矢野さんと連絡が取れなくて……」


「え?」


 思わず顔を上げ、立ったままの男を見つめた。


「矢野さんに謝りたい事があるんです。だけど電話もメールも拒否されてて……」


 立ったまま男は俺を見ることなく伏し目がちで続ける。


「矢野さんの友達で祐子さんって方がいるんですけど、その人に俺と会ってもらうよう頼んだのですが、断られたみたいで……。病院で待ち伏せしてても裏口から帰られたりして会えないんです」

 一瞬矢野の身に何かあったのかとドキッとしたが、どうやらそうではないみたいでホッとした。

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