矢野さん

「あの、差し支えなければ何があったのか教えてもらえませんか？」


　そう言うと、煙草を吸い灰皿に灰をトントンと落とした。


　おれがそう言うと、男はバツが悪そうな顔をし迷っていたのか暫くして口を開いた。


「実は……二人組の若者に絡まれて……矢野さんを置いて逃げたんです……」


　男は申し訳なさからなのか先ほどより小さな声で話す。


　その言葉に目を丸くして未だバツが悪そうな顔をしている男を凝視した。


　は？


　はぁぁあああ！？


　逃げた！？矢野を置いて！？


　あまりの衝撃発言に煙草を持ったまま固まってしまった。