矢野さん
「俺の事諦めませんとか……また好きになってもらえるよう頑張りますとか……」


 お湯を注いだ時に出来た細かい泡が、混ぜていた手を止めるもクルクルとコーヒーカップの中で円を描くのを見つめながら、そう答えた。


「マジ!矢野さんやるー!それで?お前はなんて言ったの!?」


「別になにも」


 横目で赤崎を見ると、輝かせた目で俺を見つめたまま固まったのがわかった。


「なに……も?」


「そう。何も」


 そう言うと、シンクに寄りかかりコーヒーを一口飲む。


「言いたいことだけ言って矢野さん帰っていったし」


「なんで!?お前も矢野さん好きなんだし、そこでオッケーしたら良かったじゃん!?」


「わからないんだよ……」


 目を伏せて呟く様に言った俺の言葉に赤崎が眉をひそめた。
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