矢野さん
 二人で暫く話ながら歩いていると、何やら前の方で人だかりが出来ている。


 何人かの人が慌てている様子も窺える。


「何かあったんですかね」


 矢野は不安そうに前を向いたまま俺に聞いてきた。


「さぁ……。とりあえずあそこの前通らないと帰れないし」


 矢野にそう言うと、止まることなく足を進めた。


 人だかりの現場に近づくと多くの見物人の間から、男性が一人路上に血を流し横たわっているのが見えた。


 何だ?事件?


 その時、見物人の話が耳にはいった。


「喧嘩で刺されたんだって。しかも刺した奴、凶器持ったまま逃げたらしいぞ」


「マジかよ。こえー」


 その話を聞いて足が止まる。


 刺したやつ逃げたのか?しかも凶器持ったままとか危なすぎだろ。


 もし帰り矢野に何かあっても危ないし、ここでタクシー呼んで帰らそうか……。
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