矢野さん
 そう思うと、矢野に話しかけようと横を見るが矢野の姿がない。


 不思議に思い振り返ると、少し後ろで見物人の間から横たわる男性を立ち止まって見つめている。


 その顔は酷く驚き、見つめる瞳は驚きに満ちていた。


 近づいて矢野に話しかけようとした時――。


「…………祐介?」


 横たわる人物に目を見張ったまま矢野が呟いた。


 え?


 矢野の言葉に思わず倒れ込んでいる男性にもう一度視線を向けるが、よく顔がわからない。


「祐介!」


 矢野はあの男だと確信すると慌てた様に見物人の間に割って入ろうとした。


「矢野さん!」


 駆け寄ろうとする矢野の腕を力強く掴む。


 痛かったのか矢野は苦痛な顔で俺を振り返った。

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