矢野さん
「行かなくていい。救急車呼んでるみたいだし、大丈夫だよ」


「でも――」


「長い間アイツに酷いことされて来ただろ?ほっとけよ」


「でも!あんなに血が!」


 血相を変え酷く動揺した矢野は、俺が掴んだ腕を勢いよく振り払うと、アイツの元へ駆け寄ろうとした。


「行くな!!」


 怒鳴るように叫ぶと、矢野の足がピタリと止まる。


「アイツの所に行くな。行ったら矢野さん俺に振られるよ。それでもいいの?」


「……」


 足を止めたまま、矢野はこっちを振り返らない。


「アイツが刺されたのだって自業自得だろ。あんな奴居なくなれば――」


 自分の言いかけた言葉にハッとする。


 次の瞬間――。


 パン――!!


 乾いた音と共に、左頬に鈍い痛みが走った。
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