矢野さん
「橘さんは祐介に死んで欲しいとでも思ってるんですか!?人の命を軽率に考える人だなんて思いもしませんでした!」


 矢野は瞳に涙を溜め、俺を睨み付けてそう言うと振り返ってアイツの元へ駆け出していった。


 未だ痛みが残る左頬をそっと左手で触れる。


 ああ……そうだ……。今はっきりわかった……。


 俺は……矢野が……好きだ。


 どんなにひどい事された相手でも、矢野には関係ない。


 『助けたい』……ただそれだけの気持ちで動く……。


 どんな事でも、自分が正しいと思う事を貫こうとする矢野が……俺は好きなんだ。


 見物人の間から垣間見える矢野の姿。


 必死でアイツに語りかけて応急処置をしている。白の可愛いブラウスもアイツの血で真っ赤に所々染まっていく。


 矢野……。


 泣きそうな顔で必死に応急処置をする矢野を、ただ茫然と俺は遠くから見つめていた。
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