矢野さん
「そうですか……。橘さんが何を伝えにきたか……わかってます」


 そう言うと、矢野は少し目を伏せる。

「え?」


「覚悟は出来てます!どうぞ思う存分私を罵って振って下さい!」


 矢野は俯いたままギュッと目を瞑った。


 その行動に思わず目を丸くする。


 力の限り目を瞑り、俺の言葉を待つ矢野になんだか笑えてきた。


「矢野さん、何か勘違いしてない?」


「え……?」


 力一杯瞑っていた目を開け、ゆっくり矢野は顔を上げる。


「俺が矢野さんを振るために来たと思ってるの?」


「え……だって、祐介の所に行ったら振るって……。それに……橘さんに手、出しちゃったし……」


 動揺しているのか、矢野は目を泳がせる。

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