矢野さん

 アイツの話になるとさっきまでの笑顔が無くなる。


「……一命は取りとめました。今は順調に回復してるって、祐介が入院してる病院の知り合い看護師に聞きました」


「……そうか」


「あ、祐介を刺した犯人捕まったみたいですよ」


「ホント?」


「しかも犯人女性なんですよ。金銭トラブルって話らしいですけど……」


「まぁ、あの男なら何人かの女から憎まれててもおかしくないだろな。矢野さん以外にも金づるはいるって言ってたし」


 そう言うとポケットに冷たくなった手を入れ、はぁっと夜空に白い息を吐く。


「お見舞い行くの?」


 そう聞くと矢野は驚いて勢いよく左右に首を振る。


「行きません!祐介とは、もう会うつもりありませんから」


 それを聞いてホッとする――。少しでもアイツに気持ちが残っているのかと不安があったが、はっきり否定する矢野に安心した。
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