矢野さん
 お互い名前で呼び合ってみようと試みたが、矢野は呼び捨てには出来ないからと、俺を「春君」と呼ぶといいだした。


 正直、今まで「春君」なんて呼ばれたことない俺は、ゾワッと鳥肌が立つような不快感を感じ、それなら今までのままでいいと矢野に伝えた。


 矢野も矢野で、俺が「遥」と呼び捨てで呼ぶと、かなり不機嫌な顔をして「なんか腹立つ」と言い、結局今まで通りの呼び方になってしまった。


 どうやら俺が「遥」と呼ぶと、元彼の祐介を思い出して嫌だとか……。


 いつまでアイツに縛られてんだよ!――と思ったが、長い間アイツに苦しめられて来たんのだから急には無理か……と渋々納得した。


 ビールを飲むといただきますをしてハンバーグに箸を伸ばし一口食べる。


「あ。うまっ!矢野さん料理の腕上がった?」


「え?本当?」
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