矢野さん
 何気なく摘まんだ手を振り払うように、田中さんの方へ振り返る。


「彼女いるよ」


 素っ気なく返事をすると、田中さんは不満げな顔をした。


「なんだー。やっぱりいるのかー。ざんねーん」


 そう言うと、唇を尖らす。だが直ぐにまた質問をしてきた。


「彼女とは長いんですかー?どんな人ー?見てみたーい」


 そう言いながら、今度は俺の腕に絡み付いてきた。


 なんだコイツ、馴れ馴れしい。


 思いっきり顔をしかめて、絡ませてくる腕を離そうとした時――。


「あー。浮気現場発見。矢野さんにチクったろ」


 赤崎がニヤニヤしながら給湯室に入って来た。


「あっ。赤崎さん。赤崎さんも知ってるんですかー?橘さんの彼女ー」


 田中さんはそう言うと、俺の腕から離れ赤崎に近づいて色目を使う。


「よ~く知ってる」


「どんな人何ですかー?写メとかないんですかー?やっぱり真菜より可愛い人ですかー?」


 鼻にかかるような声で頭を傾げて、ぶりっ子満載で赤崎に聞く。

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