矢野さん
 デスクに戻ると、赤崎も直ぐに戻ってきた。


「振られネタはよけいだったが、助かった。ありがとう」


 隣の赤崎だけに聞こえる様に言うと、ニッと赤崎が笑う。


「モテる男は辛いね~」


「言ってろ」


 パソコンに目を向けたまま、そう返した。


――――――――――
――――――


 定時になると、早々に仕事を片付ける。


「じゃあ、先帰るな」


「おう。橘。頑張れよ」


 赤崎がガッツポーズをして俺を力強く見つめると、俺も力強く赤崎に頷いた。


 今日は矢野の誕生日――。


 一緒に過ごすのはこれで2回目。いや、付き合う前にみんなで飲んだ事あるから3回目か?


 今日は特別の日――。俺の覚悟の日だ。


 矢野と付き合って2年半が過ぎた。


 楽しいことや悲しいこと、辛いこともいっぱいあった――。矢野を泣かせてしまった事も、別れの危機もあった……。


 でもそうやって二人で向き合いながら、ここまで来た。矢野とだからここまで来れた――。辛くてキツイ時期もあったけど、それ以上に二人で笑ったな……。


 会社を出ると、車に乗り込みある店に向かった。

< 402 / 419 >

この作品をシェア

pagetop