矢野さん
「ごめんね。遅くなっちゃった」


 顔を上げると、矢野が笑いながら此方の方へ歩いて来た。


「お疲れ。今日は忙しかったんだね」


 平然を装って、向かいに座る矢野にそう答えた。


 あっっぶねー……。バレたらサプライズも何もないからな……。


 ドキドキしながら様子を窺う様に矢野を見ていると、そんな視線に矢野が気づく。


「ん?なに?」


「いや、あー……えっと、何飲む?まだ料理も何も頼んでないんだ。適当に頼んで」


 そう言うと、慌ててメニュー表を矢野に渡す。


「え?先に頼んでてよかったのに。んー……じゃな何にしようかな……」


 矢野はメニュー表を広げて料理とドリンクを選び出した。


 あー……また喉がカラカラだ……。俺、人生の中で今一番緊張してるかも……。


 周りの賑やかな声も、自分の激しい鼓動の音で聞こえない――。


 目の前に映る矢野の姿も、緊張から来るめまいで暗く遮られよく見えない。
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